「事故物件」(7分)
マユミさんという二十代の女性が引っ越しをしようと不動産屋に相談をした。とてもいい物件があった。築浅、駅近、非常に綺麗。それなのに家賃が格安。事故物件だ。どうやらバスルームで誰かが亡くなったらしい。バスルームを確認すると、バスタブは新品。傷一つない。マユミさん、このマンションを借りることにした。引っ越しの当日、湯船に浸かっていると聞こえてきた赤ちゃんの泣き声。これが怪異の始まりだった。
「美術の先生」(19分)
この高校には不気味なことが二つあった。一つ目は青色のサリーを着た女性の幽霊が出るという噂。
もう一つは頭蓋骨の絵ばかり描いている美術の先生。あだ名がドクロ先生。ドクロ先生の口癖は「これが人間の真の姿だよ」。接点のなかった二つの不気味な出来事が、インドでつながった。愛とは何かを考える、人情味あふれる怪談。最後にもう一度「これが人間の真の姿だよ」という言葉を思い出す。
「エベレスト」(28分)
旭堂南湖の代表作。南湖が今は亡き父親と富士山に登った体験談を語る。子供の時、一緒に登山していた友達が登山家になった。世界各地の山を登り、ついに世界最高峰、エベレストに挑戦することになった。エベレストにはデスゾーン(死の領域)と呼ばれる場所がある。多くの登山家がここで命を落としている。講談独自の語りとユーモア、そして不思議な出来事。これぞ現代怪談の真骨頂。人情怪談。
「ドライブレコーダー」(7分)
警察から電話があった。交差点で信号無視をした疑いがあるので、警察署に来て、ドライブレコーダーで撮影された映像を確認してほしいという。警察署へ行うと、机の上に大きなテレビモニターが置いてある。若い警察官がリモコンを操作すると、ドライブレコーダーの映像が映し出された。画像は鮮明だ。交差点で赤信号を無視する車。あの車は自分の車だ。しかし、そんなところは行っていない。記憶にはない。
「ウォーターゲーム」(8分)
昔、子供のおもちゃでウォーターゲームというものがあった。小さな水槽の中に、輪っかがいくつか沈んでいて、ボタンを押すと、水流が起こり、この輪っかが水中を漂う。棒が数本立っていて、輪っかを棒にうまく入れることができれば成功。そんなおもちゃにまつわる不思議な出来事。プールで遊んでいた少女。気がつくと、ウォーターゲームの中に入っていた。
「リュウグウノツカイ」(8分)
ある漁師町から泳いで二十分程のところに、岩でできた無人島がある。海岸には切り立った崖があり、その崖の下に、白い洞窟と呼ばれる場所がある。普段は海中に隠れており、その洞窟に入ることはできない。大潮の干潮時、狭い洞窟の入り口が顔を出す。泳ぎながら中に入ると、奥に真っ白い砂浜が現れる。ここに光が差し込んでおり、まるでスポットライトで照らされたステージのように見える。この砂浜でおじいさんの幽霊を見た。
「邪鬼」(6分)
竹書房「怪談マンスリーコンテスト」佳作。祖母が幼い頃。近所の小高い山の中腹にお寺があった。石段を登っていくと、鬱蒼たる木々に囲まれたお寺が見えてくる。木と土の匂いがする。遠くから聞こえる滝の音。本堂には立派な毘沙門天が立っている。両足で邪鬼を踏みつけ、堂々とした姿。一方、踏みつけられている邪鬼は苦悶の表情。口を半開きにして、目玉が今にも飛び出しそうだ。幼い祖母はかわいそうだと思った。
「鬼の子」(10分)
祖母が子供の頃、近所にハルコという友達がいた。ハルコの家には鶏小屋があり、毎朝、卵を収穫して、小屋の掃除をするのがハルコの仕事。ハルコがザルを持って卵を集めていると、小屋の外で人の気配がした。振り返ってみると、男の子が立っている。見たことのない子だった。粗末な着物を着て、裸足。脳天に大きな瘤が一つある。ニタァと笑うと八重歯がニューッと出る。大きな八重歯で牙のように尖っていた。
「恩智川の大山椒魚(東大阪てのひら怪談優秀賞作品)」(5分)
祖母が子供の頃、東大阪市の恩智川に大山椒魚がいたそうだ。現在、川は濁っており、清流を好む大山椒魚が生息していたとは、全く考えられない。昔はぎょうさんいたらしい。そして、旨かったそうだ。この川沿いに住んでいたのが田端のおっちゃん。五十過ぎの独り者。職業不詳。話が面白く、四六時中、酒を飲んでいる。ある大雨の日、田端のおっちゃんが消えた。
「枚岡の古老に聞いたお話(東大阪てのひら怪談からもう一話)」(7分)
東大阪市の枚岡駅近くに公園がある。ある日、ベンチに座っていると、ステテコ姿のお爺さんが杖を突きながらやってきた。そして、静かに話し始めた。戦国時代、この場所に立派な屋敷があったそうだ。徳川家康がここに本陣を構えた。その晩、家康は数名の家来と共に廊下を歩いた。家来は手に提灯を下げていたが、風もないのに提灯の灯が一斉に消えた。家来が家康の足元を照らすと、なぜか家康の両足が切断されていた。
「話が違う」(6分)
講談で語るスプラッター映画のようなユーモアと恐怖。怪談にオチは必要ないのだが、この怪談にはオチがある。大学生の男女四人が車で心霊スポットへ行くことになった。鬱蒼たる森の中、曲がりくねった一本道、月の明かりに照らされた、赤い屋根の一軒家。突然、バーンと玄関が開いて、懐中電灯を持った若者が三人、悲鳴を上げながら、飛び出してきた。Tシャツの胸元が、血で真っ赤に染まっている。
このお話はApple Musicでも聴くことができます。